第三章第三章中庭に置かれたテーブル。しかし、術がかけてあるために痛んだりはしない。 そこに食事を並べていたフィリルは、パタパタという、すでに耳に馴染んだ音に顔を上げた。すると、まるで見計らったように、こちらも聞きなれた声がしっかりと耳に飛び込んできた。 「フィリルさーん!!」 案の定というか、やはりヨシュアの声が響いてきて、フィリルは両手に皿を持っていたことをいくらか後悔した。 「ヨシュア!大声で叫ばなくても、ちゃんと聞こえてますよ!この間、師匠が術をかけなおしてくれたの、忘れたんですか!」 文字通りにパタパタと足音を立てながら下りてきたヨシュアに、フィリルは軽く怒り口調で叱りつけた。 ヨシュアのほうは、今更口を押さえている。 「ごめんなさいっ」 「大体、私相手に大声出したら・・・」 師匠 ―― ルーファスがかけた魔法というのは、音響きの術だ。 どんな小さな音でも、建物の隅々にまで音が響くというもの。もともとは、泥棒などの招かれざる客を追い払う術なのだ。 しかし、ルーファスがかけたのはそれを多少改良したものである。 つまり、城の何処に居ても、話しかけたい相手にだけ、普通の声で話しても適度な音量の声を掛けれるという、なんとも便利な術に仕上がっているのだ。もっとも、このことによって不幸な目にあっている人物も実際にいるわけで。 フィリルはまだジンジンとする耳を片方押さえながら言った。 片方だけなのは、もう片方の手には皿を持ったままだからである。 「本当に気をつけてくださいねっ」 皿をテーブルに置きながら、軽くヨシュアを睨みつける。 「ごめんなさい~っ」 しっかり反省しているのが手にとるように分かり、フィリルはやんわりと微笑んだ。 「分かってくれたらいいんですよ」 ヨシュアはほっとしたようにはにかんだ笑みを浮かべた。 「ところで!フィリルさん、やっぱり駄目でした!!」 それを聞いてフィリルは苦笑してしまった。 「やっぱりですか・・・。まったく、あの人もいい加減目を覚ましたっていいと思うんですがねぇ。まったく・・・」 呆れたように言いながら、フィリルは服の隠しから小指小のちいさな瓶を取り出した。 中には綺麗な黄色の液体が、日の光を反射して輝いている。 ヨシュアはそれを見ると、意味ありげに微笑んだ。 フィリルのほうは、それをヨシュアの目線で軽く振る。 「今日は何になるんですか?」 嬉々としながら訊ねるヨシュアに、フィリルはにっこりと微笑んだ。 「お楽しみ♪」 小瓶の中身は、姿変えの薬である。 フィリルにとっては十八番ともいえるこの魔法薬というものは、実に多彩な種類がある。 それこそ劇薬から万能薬と呼ばれるものまでが、同じ材料から作り出されたりもする。 「それじゃ、起こしてきますねっ」 そう言ったと思えば、ヨシュアの姿はすでに室内に姿を消していた。 「もう少し落ち着かせるべきですね・・・」 呆れるどころか一部尊敬まで覚えてしまうほどの速さに、フィリルは小さくつぶやいた。 |