022559 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

見習い魔術師

見習い魔術師

     第三章    

第三章

中庭に置かれたテーブル。しかし、術がかけてあるために痛んだりはしない。
そこに食事を並べていたフィリルは、パタパタという、すでに耳に馴染んだ音に顔を上げた。すると、まるで見計らったように、こちらも聞きなれた声がしっかりと耳に飛び込んできた。
「フィリルさーん!!」
案の定というか、やはりヨシュアの声が響いてきて、フィリルは両手に皿を持っていたことをいくらか後悔した。
「ヨシュア!大声で叫ばなくても、ちゃんと聞こえてますよ!この間、師匠が術をかけなおしてくれたの、忘れたんですか!」
文字通りにパタパタと足音を立てながら下りてきたヨシュアに、フィリルは軽く怒り口調で叱りつけた。
ヨシュアのほうは、今更口を押さえている。
「ごめんなさいっ」
「大体、私相手に大声出したら・・・」
師匠 ―― ルーファスがかけた魔法というのは、音響きの術だ。
どんな小さな音でも、建物の隅々にまで音が響くというもの。もともとは、泥棒などの招かれざる客を追い払う術なのだ。
しかし、ルーファスがかけたのはそれを多少改良したものである。
つまり、城の何処に居ても、話しかけたい相手にだけ、普通の声で話しても適度な音量の声を掛けれるという、なんとも便利な術に仕上がっているのだ。もっとも、このことによって不幸な目にあっている人物も実際にいるわけで。
フィリルはまだジンジンとする耳を片方押さえながら言った。
片方だけなのは、もう片方の手には皿を持ったままだからである。
「本当に気をつけてくださいねっ」
皿をテーブルに置きながら、軽くヨシュアを睨みつける。
「ごめんなさい~っ」
しっかり反省しているのが手にとるように分かり、フィリルはやんわりと微笑んだ。
「分かってくれたらいいんですよ」
ヨシュアはほっとしたようにはにかんだ笑みを浮かべた。
「ところで!フィリルさん、やっぱり駄目でした!!」
それを聞いてフィリルは苦笑してしまった。
「やっぱりですか・・・。まったく、あの人もいい加減目を覚ましたっていいと思うんですがねぇ。まったく・・・」
呆れたように言いながら、フィリルは服の隠しから小指小のちいさな瓶を取り出した。
中には綺麗な黄色の液体が、日の光を反射して輝いている。
ヨシュアはそれを見ると、意味ありげに微笑んだ。
フィリルのほうは、それをヨシュアの目線で軽く振る。
「今日は何になるんですか?」
嬉々としながら訊ねるヨシュアに、フィリルはにっこりと微笑んだ。
「お楽しみ♪」
小瓶の中身は、姿変えの薬である。
フィリルにとっては十八番ともいえるこの魔法薬というものは、実に多彩な種類がある。
それこそ劇薬から万能薬と呼ばれるものまでが、同じ材料から作り出されたりもする。
「それじゃ、起こしてきますねっ」
そう言ったと思えば、ヨシュアの姿はすでに室内に姿を消していた。
「もう少し落ち着かせるべきですね・・・」
呆れるどころか一部尊敬まで覚えてしまうほどの速さに、フィリルは小さくつぶやいた。



















© Rakuten Group, Inc.